シルガード9(HPVワクチン)は男性へ接種対象が拡大されました
- 2025年8月31日
- ワクチンに関すること,子宮頸がん関すること
HPV9価ワクチンであるシルガード9は、2025年8月より9歳以上の男性へ接種対象が拡大されました。シルガード9は、ヒトパピローマウイルス(HPV)の「6、11、16、18、31、33、45、52、58型」の感染を予防する効果があります。これにより男性における「尖圭コンジローマ」や「肛門がん」の予防が可能になります。しかし、男性への適応拡大はこれらの効果のみならず、実はもっと重大な公衆衛生学的な意味を持っています。
HPVワクチンを男性に投与する意義
HPV関連の疾患で男性を悩ませるのは、尖圭コンジローマを筆頭に、肛門がんや中咽頭がん(喉のがん)等があります。これらを予防するためにワクチンを投与することは、男性に対する直接的な恩恵を示します。しかし男性にHPVワクチンを接種する意義は、女性への二次的感染を予防するという極めて重要な意義もあるのです。
ハイリスクHPV感染に起因するがんは圧倒的に女性に発症しやすい
ヒトパピローマウイルス(HPV)にはハイリスク型とそれ以外の型に分類され、ハイリスク型HPVの感染は、様々ながんの原因となります。具体的には、①子宮頸がん・子宮頸部異形成/子宮頸部上皮内腫瘍、②腟がん、③外陰がん、④中咽頭がん、⑤肛門がん、⑥陰茎がん、などです。この中で患者数が極めて多く、医学的にも社会的にも大きな問題となるのは、子宮頸がん・子宮頸部異形成/子宮頸部上皮内腫瘍です。②~⑥は稀ながんであり、罹患数が非常に少ないです。つまりハイリスク型HPVが感染したことによって大きなダメージを受けるのは、圧倒的に女性だということなのです。そしてHPVは性行為によって感染するウイルスであり、男性から女性に感染する頻度が非常に多いのです(もちろん同性間でも感染します)。
女性をHPVから守るためには、男性もHPVに感染しないようにしたい
よって女性自身にHPVワクチンを接種することはもちろんのこと、男性にもHPVワクチンを接種することによって、女性へのHPV感染を防ぐことが可能になります。このことを医学的には「集団免疫」と呼びます。HPVワクチンの男女双方への接種による集団免疫効果は、既に接種先進国であるオーストラリアやヨーロッパ諸国で科学的に証明されています。そして理想的にはセクシャル・デビュー前(性行為未経験)での接種が望ましいですが、デビュー後であっても比較的若年であればその効果は十分に発揮されることもわかっています。
女性も男性もHPVワクチンの積極的接種を
現在シルガード9の定期接種(公費助成により無料)は、12歳~16歳の女性が対象となっています。また年齢に関係なく、17歳~45歳で過去にHPVワクチンの接種歴のない方は、HPVワクチン接種(任意接種・自費)が奨められています。さらに近年いくつかの自治体では、12歳~16歳の男性に対するシルガード9の接種に対する公費助成も始まっています。残念ながら横浜市ではまだ任意接種ですので、政治行政の迅速な対応が待たれます。これからは男性も女性も積極的にHPVワクチンを接種することを考慮するべきだと思います。当院では男性にもHPVワクチン接種を行います。当院受診歴のある方のご子息やパートナーで、HPVワクチンをご希望の方は、スタッフまでお問合せください。
文責 小宮山慎一
こみやまレディースクリニックあざみ野副院長
東邦大学医学部産科婦人科学准教授
慶應義塾大学医学部産婦人科学客員准教授