帯状疱疹ワクチンが認知症を減らせる可能性があることをご存じですか? ー帯状疱疹ワクチンの定期接種が始まりますー
- 2025年5月6日
- 閉経に関すること,感染症に関すること,フェムテックに関すること,ワクチンに関すること,更年期に関すること
今年度より高齢者への帯状疱疹ワクチンの定期接種が始まります。ところで帯状疱疹ワクチンが認知症の発症をも予防できる可能性があることをご存じですか?
ヘルペス・ウイルスと認知症
近年、神経に感染するヘルペス・ウイルスがアルツハイマー病を含む認知症の発症に何らかの影響をおよぼしているという知見が多方面から集まっています。同時にヘルペス・ウイルスに対するワクチン接種が認知症を予防するのではないか、という仮説も提唱されています。このほど米スタンフォード大などのチームが、ヘルペス・ウイルスの一種である水痘帯状疱疹ウィルス(HZV)に対するワクチン接種が、認知症の発症を減少させる可能性があることを英科学誌「ネイチャー」の最新号に発表しました。ちなみにネイチャー(Nature)は世界最高峰の医学雑誌です。
帯状疱疹ワクチンは認知症のリスクを20%減少させた
2013年より79歳への帯状疱疹ワクチンの定期接種を始めた英ウェールズの28万人の医療記録を後方視的に調査した結果、接種7年後の認知症発症率が20%減少したこと、この効果は特に女性で高かったことが判明しました。帯状疱疹ワクチン接種が認知症リスクを減少させるメカニズムとして、ワクチンによって誘発される広範な免疫機構の賦活化が認知症発症を抑制する効果を発揮していると考えられていますが、その詳細は今後明らかになっていくと思われます。
認知症はひとたび発症すると治療が非常にむずかしく、レカネマブのような超高額な治療薬をもってしても、その効果が現れる人はごく一握りです。よって予防に勝るものはない病気と言えます。加えて帯状疱疹ワクチンはレカネマブのような治療薬に比べはるかに安価であり、副反応も限定的であることから、費用対効果は極めて高いと言えます。
帯状疱疹は高齢者を苦しめる病気
一方の帯状疱疹は、子供のときに水痘(水ぼうそう)にかかった時に体内に入り込んだ水痘帯状疱疹ウイルス(HZV)が、加齢や免疫機能の低下に伴い再活性化することにより、神経に沿って痛みを伴う水疱が現れる病気です。高齢者が発症すると重症化しやすく、神経痛という非常につらい後遺症を残すことも多く、特に女性においてその傾向が強いことが知られています。そのため本邦においても公費助成による定期接種が広がっており、横浜市でも今年度(令和7年度)より65歳以上の高齢者に対する帯状疱疹ワクチンの公費助成による予防接種(定期接種)が始まります。詳細は以下の横浜市のWebサイトをご参照ください。
帯状疱疹ワクチンは「一石二鳥」で極めて有益!50歳を過ぎたら接種を!
帯状疱疹ワクチン接種はつらい帯状疱疹を予防するだけでなく、認知症のリスクも減らせるという素晴らしい副事象もあることから、公衆衛生学的には極めて有益な医療行為と言えます。是非とも多くの中高年の方々に接種していただきたいと思います。
当院では65歳以上の定期接種対象年齢の方はもちろんのこと、50歳以上の方にも帯状疱疹ワクチンを積極的に推奨しています。定期接種の方は横浜市の個別通知が届き次第、順次対応させていただきます。それ以外(任意接種)の方は自己負担での接種を一年を通してお受けしています。詳しくは当院までお問い合せ下さい。
参考文献
Eyting M, et al. A natural experiment on the effect of herpes zoster vaccination on dementia. Nature. 2025 Apr 2. doi: 10.1038/s41586-025-08800-x.
文責 小宮山慎一
こみやまレディースクリニックあざみ野副院長
東邦大学医学部産科婦人科学准教授
慶應義塾大学医学部産婦人科学客員准教授