遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)をご存じですか?|こみやまレディースクリニックあざみ野|青葉区・女性医師の産婦人科

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コラム

遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)をご存じですか?|こみやまレディースクリニックあざみ野|青葉区・女性医師の産婦人科

遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)をご存じですか?

遺伝性乳がん卵巣がんとは?

遺伝性乳がん卵巣がん(Hereditary Breast and Ovarian Cancer:HBOC)は、遺伝性乳がんおよび遺伝性卵巣がんの総称です。乳がんや卵巣がんになりやすい遺伝子の異常を生まれつき持っている家系の女性は、一般の人よりも高い確率でこれらのがんが発症します。この遺伝子異常は、親から子へ、子から孫へと受け継がれていきます。よって、おばあちゃん、お母さん、おばさん、姉妹、娘に乳がんや卵巣がんを発症した人が何人かいる場合は、HBOCを疑う必要があります。一般に、乳がん全体の約5%、卵巣がん全体の約15%が、HBOCと言われています。

遺伝性乳がん卵巣がんの原因は?

HBOCの原因遺伝子は、BRCA1遺伝子もしくはBRCA2遺伝子の異常です(生殖細胞系列の病的バリアントと言います)。BRCA1もBRCA2も、DNAにキズ(損傷)が生じたときに、それを修復する機能を持っているため、生まれながらにこれらの機能に異常がある場合は、DNAの損傷が修復されにくく、遺伝子の異常が蓄積し、がんになりやすくなります。BRCA1もしくはBRCA2遺伝子の異常があると、乳がんや卵巣がんになりやすいだけでなく、膵臓がんや前立腺がんにもなりやすいことが知られています。BRCA1やBRCA2の生まれながらの病的バリアントを両親のうちのどちらかが保有していると、それを子が受け継ぐ確率は50%(2分の1)です。このような遺伝形式を常染色体顕性遺伝と呼びます。

遺伝性乳がん卵巣がんの特徴は?

ご自身もしくは血縁者が以下の項目に当てはまる場合は、HBOCの可能性を考慮します。

乳がんと診断されていて、かつ以下のいずれかに該当する
 • 45歳以下で乳がんと診断された
 • 両側の乳がんと診断された
 • 片方の乳房に複数の乳がんと診断された
 • 60歳以下で、トリプルネガティブの乳がんと診断された
 • 血縁者に乳がん、卵巣がん、膵臓がんと診断された方がいる
 • 男性で乳がんと診断された
卵巣がん・卵管がん・腹膜がんと診断された
膵臓がんと診断されていて、かつ以下に該当する
  血縁者に、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がん、悪性黒色腫のいずれか診断された方が2人以上いる
前立腺がんと診断されていて、かつ以下に該当する
 血縁者に、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がん、悪性黒色腫のいずれか診断された方が2人以上いる
がん遺伝子パネル検査(包括的がんゲノムプロファイリング検査)の結果、BRCA1もしくはBRCA2の遺伝子異常を指摘された
◼ 血縁者がBRCA1もしくはBRCA2の遺伝子異常を指摘された

遺伝性乳がん卵巣がんの診断は?

HBOCの診断は、BRCA1およびBRCA2遺伝子の異常(生殖細胞系列における病的バリアントの有無)を血液検査で調べます。これを「BRCA1/2遺伝学的検査」と呼びます(BRCA遺伝子検査・ BRACAnalysis診断システム)。BRCA1/2遺伝学的検査には以下の2つがあります。
◆BRCA1およびBRCA2遺伝子の全体を調べる・・・家系内で最初に検査を受ける方
◆BRCA1およびBRCA2遺伝子の一部分を調べる(シングルサイト検査)・・・すでにHBOCと確定している方の血縁者

検査結果は以下の3つのパターンで判定されます。

・病的バリアントあり(陽性)
・病的バリアントなし(陰性)
・臨床的な意義が不明のバリアントあり(variant of uncertain significance:VUS)

陽性の場合をHBOCと確定診断します。VUSは現時点では陰性の扱いとなりますが、将来多数のデータが集積され、その意義が明らかとなった場合、病的バリアントに変更となる可能性があります。

BRCA1/2遺伝学的検査で陽性(病的バリアントあり)と診断されたら、必ずがんを発症する?

必ず発症するわけではありません。しかし、一般の人に比べると、かなり高い確率で発症すると言えます。

乳がんにかかる

リスク
卵巣がんにかかる

リスク
一般的な日本人  生涯でおよそ10% 生涯でおよそ2%
BRCA1

陽性
70歳までにおよそ60% 70歳までにおよそ40%
BRCA2

陽性
70歳までにおよそ50% 70歳までにおよそ20%

 

遺伝性乳がん卵巣がんと診断されたらどうする?

HBOCと診断する意義は、以下の3つです。

  1. ご自身の計画的ながん検診(サーベイランス)やリスク低減を行う
    一般の方よりもきめ細やかな検診(サーベイランス)を行い、がんの早期発見に努めたり、ホルモン剤による予防、さらにはリスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)やリスク低減乳房切除術(RRM)を行う場合もあります。
  2. 治療に生かす
    BRCA陽性の場合、PARP阻害薬という分子標的薬が非常によく効くため、治療に生かすことができます(コンパニオン診断)。
  3. 血縁者への対応に生かす
    血縁者も陽性だった場合、計画的なサーベイランスやリスク低減を考慮します。

遺伝性乳がん卵巣がんの検査や診断を受けるデメリットは?

BRCA1/2遺伝学的検査も万能ではありません。以下の限界に留意する必要があります。

●現在の解析技術では見つけることができない病的バリアントを有する可能性はゼロではない
●BRCA以外の遺伝子にがんの発症と関連している病的バリアントを有する可能性がある
●病的バリアントが見つかっても、実際にがんを発症するか否かや、いつ発症するかを予測することはできない

HBOCと診断されても100%がんを発症するわけではありませんし、診断されたことにより不安や差別が生じる可能性もあります。さらに「知らない(知りたくない)権利」もあります。よってひとり一人の生き方やポリシーを尊重して対応する必要があります。その際には、HBOCに関する専門的知識を持った医療者と十分に相談しながら行うことが肝要です(これを遺伝カウンセリングと呼びます)。

遺伝カウンセリングの実際

遺伝カウンセリングは、相談者がHBOCについて十分に理解し、自らの意思で選択し行動できるように支援する場です。以下のような流れで行います。

  1. 本人や家族の病歴などの確認
  2. HBOCの説明、BRCA1/2遺伝学的検査の説明
  3. 検査の結果説明
  4. サーベイランスやリスク低減手術に関する相談
  5. 血縁者への対応の相談

BRCA1/2遺伝学的検査の費用は?

以下の条件を満たし、HBOCが疑われる場合は、保険診療で検査を行うことが可能です(3割負担:およそ6万円,2割負担:およそ4万円,1割負担:およそ2万円)。
◆45歳以下で乳がんと診断された
◆60歳以下でトリプルネガティブの乳がんと診断された
◆両側の乳がんと診断された
◆片方の乳房に複数の乳がんを診断された
◆男性で乳がんと診断された
◆卵巣がん・卵管がん・腹膜がんと診断された
◆自身が乳がんと診断され、血縁者に乳がんまたは卵巣がんまたは膵臓がん発症者がいる
◆がん発症者でPARP阻害薬に対するコンパニオン診断を行う場合

上記に当てはまらなくても、既往歴や家族歴からHBOCが疑われることがありますが、その場合のBRCA1/2遺伝学的検査は自費診療となります(およそ20万円)。

また血縁者がBRCA遺伝子に病的バリアントを持っていても、ご本人が乳がん、卵巣がんのいずれも発症していない場合は、自費診療となります(およそ20万円)。血縁者ですでにわかっている遺伝子の一部の領域のみを解析する場合(シングルサイト検査)も、自費診療です(およそ7万円)。

BRCA1/2以外の多数のがん関連遺伝子の異常を網羅的に調べられる検査として、がん遺伝子パネル検査(包括的がんゲノムプロファイリング検査)がありますが、原則として自費診療となります(調べる遺伝子の数によって異なり、およそ30~70万円)。

遺伝カウンセリングについても費用が発生します。保険診療ではおよそ1千円(1割負担)~およそ3千円(3割負担)、自費診療ではおよそ5千円~1万円です。

なお健康保険が適用となるBRCA1/2遺伝子検査の費用は、高額療養費制度の対象となりますので、自己負担額を超える部分は還付されます。

横浜市では2024年度よりHBOC診療に対する検査費等助成事業が始まりました。これは自費診療で行われる検査や遺伝カウンセリングの費用の一部を横浜市が助成する制度です。詳細は下記の横浜市のWebサイトをご参照ください。
https://www.city.yokohama.lg.jp/kenko-iryo-fukushi/kenko-iryo/iryo/gan/taisaku/hbockensa.html

当院では遺伝性乳がん卵巣がんに取り組んでいます

婦人科腫瘍専門医と遺伝性腫瘍専門医の両ライセンスを有し、がんゲノム医療やがん遺伝子診断にも詳しい副院長が、HBOCについて皆様のご相談に応じます。通常は大学病院やがん専門病院等を受診しなければ相談することは不可能ですが、身近なクリニックで受けることができるのです。まずはお気軽にお問い合せください。

 

文責 小宮山慎一
こみやまレディースクリニックあざみ野副院長
東邦大学医学部産科婦人科学准教授
慶應義塾大学医学部産婦人科学客員准教授

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