閉経期のホルモン補充療法も有効です
65歳以上の閉経期におけるホルモン療法は、がん、心血管疾患だけでなく、あらゆる死亡リスクを低下させるという最新の研究結果が、国際的な専門誌「Menopause」に掲載されました。簡単にご紹介します。
米国に住む65歳以上の高齢女性に対するホルモン補充療法の健康への影響を調査
この研究は米国立衛生研究所(NIH)のグループによる研究で、米国の公的医療保険であるメディケアに加入している高齢女性1000万人のデータを用いて、全死因死亡率、5つのがん、6つの心血管疾患、認知症に対するさまざまなホルモン療法の影響を調べました。
ホルモン補充療法は、死亡・がん・心血管系疾患、認知症、のリスクを低下
その結果、エストロゲン単独療法を65歳以上で使用する人は、使用しなかった(もしくは中止した)人と比較して、死亡(19%)、乳がん(16%)、肺がん(13%)、大腸がん(12%)、うっ血性心不全(5%)、静脈血栓塞栓症(3%)、心房細動(4%)、急性心筋梗塞(11%)、認知症(2%)のリスクを有意に低下させました。
エストロゲン+プロゲスチン(合成黄体ホルモン)療法およびエストロゲン+プロゲステロン(天然黄体ホルモン)療法は、乳がんのリスクの10~19%上昇と関連していました。ただし、低用量の経皮的または経腟的エストロゲン+プロゲスチン療法は、このリスクを軽減する可能性が示唆されました。
またエストロゲン+プロゲスチン療法は、子宮内膜がん(45%)、卵巣がん(21%)、虚血性心疾患(5%)、うっ血性心不全(5%)、静脈血栓塞栓症(5%)のリスクを有意に低下させました。一方、エストロゲン+プロゲステロン療法は、うっ血性心不全(4%)のみリスクを低下させました。
高齢女性に対するホルモン補充療法の意義と薬剤選択の個別化
本研究は過去に例を見ない膨大な数の閉経後女性を対象とした疫学研究で、かつ米国政府の公的研究機関が行った中立性の高いものであり、その結果は非常に重要な意味を持ちます。65歳以上の女性に対するホルモン補充療法の安全性、有益性、さらには薬剤選択による違いが示されたことから、ホルモン補充療法もより個別化する必要性があることが示唆されます。米国人女性を対象とした研究なので、日本人女性とはいろいろ相違点があるため、その結果を完全に鵜呑みにすることは好ましくありませんが、日本人の同世代の女性に対するホルモン療法の実施に関して、とても参考になる研究結果だと考えます。
当院においてもこのエビデンスを踏まえ、高齢女性の一層の健康増進を目指し、ホルモン補充療法の個別化を推進していきたいと考えております。
参考文献
Baik SH, et al. Use of menopausal hormone therapy beyond age 65 years and its effects on women’s health outcomes by types, routes, and doses. Menopause. 2024;31:363-371.
文責 小宮山瑞香
こみやまレディースクリニックあざみ野院長