米国よりセカンドオピニオンに受診してくださいました
- 2026年10月25日
- 婦人科がんに関すること,更年期に関すること,こみやまレディースクリニックあざみ野に関すること
|遠路はるばる米国よりセカンドオピニオンに受診してくださいました
当院は婦人科がんや婦人科腫瘍に関するセカンドオピニオンを広くお引き受けしていますが、過日は米国よりE.W.さん(56歳)がご主人とともにセカンドオピニオン希望で受診してくださいました。E.W.さんは生まれも育ちもカリフォルニア州で、ロサンゼルス在住ですが、同地の一般病院で外陰腫瘍の手術を行ったところ、「侵襲性血管粘液腫」と診断されました。同院では対応が困難なため、市内のがん専門病院を紹介され、その後の治療を行うことになりました。しかし同院でもこの病気の治療経験がほとんどないことから、主治医を含めて今後の治療方針について大変迷われているとのことでした。
|侵襲性血管粘液腫(Aggressive angiomyxoma: AAM)とは
侵襲性血管粘液腫(AAM)は、女性の外陰部や骨盤内に発生する極めてまれな間葉系腫瘍です。発生頻度が非常に低いことから、治療方針は確立されていません。病理学的には良性腫瘍ですが、境界不明瞭であることから、手術で摘出した後も局所再発を繰り返すことが多く、生物学的には悪性腫瘍のような動態を示し、治療に難渋する厄介な病気です。婦人科で治療することが多いのですが、極めてまれな疾患であることから、本疾患を経験したことのない(病名を聞いたこともない)婦人科医が大多数であるのが現状です。私は長く大学病院で診療を行っていたため、AAMの治療経験が3例あります。その中で再発後の治療に成功した1例の経過について、2025年に論文で発表しました(Cureus. 2025 Mar 27;17(3):e81270. )。向学心の高いE.W.さんはご自身でAAMについて調べ、多くの医学論文を読み漁る中で、私の執筆した論文に出会い、直接相談したいとのことから、遠路はるばるロサンゼルスから来日し、当院までお越しくださったのです。

|侵襲性血管粘液腫(AAM)とホルモン補充療法(HRT)
E.W.さんは50歳で閉経し、その2年前からエストロゲンとプロゲスチンによるホルモン補充療法(HRT)を行っていました。ホルモン補充療法(HRT)は様々な更年期障害を緩和するのみならず、中長期的には骨粗鬆の予防、心血管系障害の予防、脂質系異常の予防、認知症の予防、生活の質の改善(ウェルビーイングの維持)などに寄与する極めて有効な治療です。しかし今回AAMと診断されたため、術後からHRTを中止しました。なぜならAAMの多くはエストロゲン受容体(ER)とプロゲステロン受容体(PgR)を有し、ホルモン感受性腫瘍だからです。事実E.W.さんの腫瘍も、免疫組織化学的にER陽性/PgR陽性でした。しかしHRTを中止したことによって更年期障害が再発し、様々な問題が起こるようになったそうです(「ケンカが絶えないようになったので、何とかならないものか?」とはご主人の弁・・)。HRTを再開すれば体調は改善し、生活の質も改善しますが、他方AAMは再発する可能性が高くなります。中止して約半年が経過し、HRTを再開するべきか否か、大変悩んでおられました。
|私のセカンドオピニオン
直近のMRIを見る限り、局所再発の所見はありませんでした。また、発症時56歳で閉経後であること、原発腫瘍は外方発育タイプ(骨盤内に広がるタイプではない)で腫瘍径も3㎝と小さいこと、初回手術では腫瘍摘出のみであったがその後の再手術で広汎局所切除が追加されていること、さらにHRTのベネフィットがE.W.さんには非常に大きいと判断したこと、以上を勘案して、「再発リスクは低い」「HRTの再開は許容される」との意見を伝えました。ただし定期的なMRIによる厳重な経過観察が必要であることと、再発兆候を認めた場合はただちにHRTを中止し、アロマターゼ阻害剤、SERM(タモキシフェン)、GnRHアンタゴニスト等による治療および再手術の検討を行うこともアドバイスしました。E.W.さんとご主人は約40分間じっくりとセカンドオピニオンを受け、満足してお帰りになりました。ちなみにせっかく来日したのだからと、翌日から東京観光と富士山観光と浦安のディズニーランドにも行かれるとのことでした(笑)。
|エビデンスとエクスペリエンス
医学の世界では、エビデンス(科学的根拠)に基ずく医療が最も重要であることは他言を待ちません。前向きの臨床試験や疫学研究は「エビデンス」です。その一方でエビデンスの乏しい(もしくはエビデンスが無い)疾患も数多く存在します。さらには科学的な事由のみでクリアカットに判断できない局面もあります。そのような状況においては、エクスペリエンス(医師の経験・知識・技量)が重要となってきます。とかく「エビデンス」を英文論文で発表することの必要性ばかりが強調されますが、症例報告である「エクスペリエンス」もしかるべき英文ジャーナルに発表することにより、世界のどこかで必ず誰かの役に立つということを深く実感した一日でした。
文責 小宮山慎一
こみやまレディースクリニックあざみ野副院長
東邦大学医学部産科婦人科学客員教授
医学博士